産業

ケベックに工場を持つ韓国の電池メーカーはどこ?

川沿いでクレーンと作業員が見える建設中のバッテリー工場
目次
  1. ケベックに工場を持つ韓国の電池メーカーはどこか?
  2. 韓国の電池メーカーがケベックを選んだ理由は?
  3. 韓国から直送せず、なぜカナダで作るのか?
  4. ケベックの工場は米自動車メーカーにどれだけ近いのか?
  5. よくある質問

韓国の電池メーカーのうち、カナダ・ケベック州に工場を構えたのは、セルではなく正極材を手がけるPOSCOフューチャーエムとエコプロの2社です。場所はセントローレンス川沿いの小さな工業都市ベカンクールで、両社とも北米向け正極材の生産拠点としてここを選びました。2026年9月時点で、どちらもまだ生産を始めていません。POSCOフューチャーエムとゼネラル・モーターズ(GM)の合弁工場は2026年10月末に第1期の稼働を予定し、エコプロの工場は2025年6月に3度目の工事中断に入ってから止まったままです。北米の電池報道はジョージア州やミシガン州に目が向きがちですが、ケベックの「電池集積地」の中身は、稼働間近の工場1つと、工事の止まった現場1つにすぎません。

クイックアンサー

  • ケベックに正極材工場を持つ韓国の電池企業はPOSCOフューチャーエムとエコプロの2社で、どちらもベカンクールにあります。Ultium CAM(POSCOフューチャーエム85%・GM15%)は2026年10月末に第1期稼働予定で、EcoPro CAM Canadaは2025年6月から工事が止まっています。
  • 両社が作るのは電池サプライチェーンの中でも電力を多く使う中間工程の正極活物質で、完成セルではありません。セルの組立は今もジョージア州などの米国拠点が担っています。
  • ケベックの決め手はクリーンな電力と公的資金で、エコプロの12億カナダドル規模の計画には連邦政府とケベック州がそれぞれ3億2,200万カナダドルの支援を約束しています。理由としてよく挙がる米国のEV税額控除は、要件の上で韓国もカナダと同じ自由貿易協定の相手国でした。しかも2025年9月30日より後に取得した車両には、控除そのものが適用されません。

ケベックに工場を持つ韓国の電池メーカーはどこか?

POSCOフューチャーエムとエコプロの2社で、どちらもモントリオールとケベック・シティの中間にあるベカンクールの同じ工業団地にあります。ただ、置かれた状況は対照的です。

Ultium CAMEcoPro CAM Canada
韓国側の出資者POSCOフューチャーエム(85%)エコプロBM
パートナーGM(15%)当初はSKオンとフォード(フォードは2024年に撤退)
年間生産能力正極材3万トン4万5,000トン(計画)
事業規模6億カナダドル超12億カナダドル
2026年9月時点の状況第1期は2026年10月末稼働予定、第2期は保留2025年6月から工事中断

稼働が近いのはUltium CAMです。出資比率はPOSCOフューチャーエム85%、GM15%で、2025年10月に固まった日程では第1期の稼働が2026年10月末です(Korea Herald 2025年10月20日)。POSCOは同工場を、GMとLGエナジーソリューションの電池合弁「Ultium Cells」に供給する年産3万トンの正極材工場と説明しています(POSCOニュースルーム)。ただし、当初の計画からは遅れています。カナダ連邦政府が6億カナダドル超の事業への支援を発表した2023年5月の時点では、生産開始は2025年の予定でした(カナダ政府)。正極材と前駆体の生産能力を上積みするはずだった第2期は2025年10月に保留となり、その原料を供給する予定だったブラジルの資源大手ヴァーレも、ニッケル硫酸塩工場の計画を取り消しています(Daily Commercial News)。

止まっているのはエコプロの工場です。エコプロBM、SKオン、フォードの3社が2023年8月に発表した計画は、事業費12億カナダドル、正極活物質の年産4万5,000トン、生産開始は2026年上半期というものでした(カナダ政府)。工事は2024年4月と、同年8月からの2度にわたって止まり(Businesskorea 2024年8月19日)、フォードは同年のうちに事業から手を引いています。2025年6月初めには、米国の関税とEV市場の不透明感を理由に3度目の中断に入りました。このときの発表文は、言葉をかなり慎重に選んでいます。中断を「一時的」としながら、期間については「予測するのは時期尚早」と述べているのです(Automotive News(Yahoo Finance掲載))。それから1年がたっても、工事は再開していません。エコプロBMが2026年半ばに提出した増資の証券届出書も、工事は中断中で完工時期の遅れが続いているとし、資産減損の可能性を排除できないと記しています(NewsTop)。古い報道に残る「2027年量産」は2024年の遅延を受けて設定された目標で、3度目の中断より前のものです。

韓国の半導体産業と並べると、工場の遅れはいっそう目立ちます。韓国のメモリメーカーがAI需要で輸出記録を更新しているのに対し、これらの正極材工場は、2022〜2023年の計画時点の想定より伸びの鈍いEV市場に合わせて規模が決められました。貿易統計にも同じ構図が表れており、韓国の輸出のほぼ半分を半導体が占めています。

韓国の電池メーカーがケベックを選んだ理由は?

決め手はクリーンな電力と公的資金で、どちらも数字で裏づけられます。正極活物質の生産は電力を大量に使う工程です。カナダエネルギー規制庁によると、ケベック州の発電量に占める水力の割合は2021年に94%で、2022年の電力の排出原単位は1キロワット時あたり約1.2グラム(CO2換算)でした。電池のカーボンフットプリントを管理する自動車メーカーに素材を売る以上、この数字は宣伝文句ではなく、採算に直結する項目になります。資金面の条件を整えたのは政府です。エコプロの工場には連邦政府が戦略的イノベーション基金から3億2,200万カナダドルを、ケベック州が同額の一部返済免除付き融資を約束しました。Ultium CAMの第1期にも両政府が約3億カナダドルを投じ、うち1億5,200万カナダドルはケベック州の一部返済免除付き融資です(Daily Commercial News)。2023年8月の発表は、ケベックの強みを「天然資源とクリーンエネルギーによって、ケベックはこの産業の世界的リーダーにとって世界で最も魅力的な場所の一つ」と一文にまとめています。

韓国から直送せず、なぜカナダで作るのか?

顧客である自動車メーカーが北米で生産していて、素材も近くで作ることを望んだからです。米国の税制が韓国産の素材を不利に扱ったからではありません。両工場とも、最初から特定の自動車メーカーと結びついていました。Ultium CAMの正極材はGMのUltium Cells向けです。エコプロの工場はフォードが将来出すEVの電池への供給を前提に設計され、パートナー各社はケベックに拠点を置くことで「北米での電池原料の安定供給」が得られると説明しています(カナダ政府)。

日本の自動車メーカーにも、カナダで電池の供給網を丸ごと築く計画がありました。ホンダは2024年4月、隣のオンタリオ州アリストンにEV工場と電池工場を建てる構想を発表しています。合弁相手の投資を含めて約150億カナダドルを投じ、カナダの「豊富な資源とクリーンエネルギー」を生かして電池の安定供給体制を築くという内容で、正極材と前駆体の工場はPOSCOフューチャーエムとの合弁で設けるとしていました(ホンダ)。しかしEV需要の減速を受けて2025年5月に約2年の延期を決め、2026年5月にはカナダでのEVバリューチェーン構想そのものを無期限で凍結すると発表しています(ホンダ)。EVの伸び悩みで北米の計画を見直しているのは、韓国の素材メーカーだけではありません。

税額控除を理由とする説明は、制度の中身を確かめると成り立ちません。米国のクリーン車両税額控除は、電池に使う重要鉱物のうち毎年引き上げられる一定割合を、米国内か、米国と自由貿易協定を結ぶ国で採掘・加工するよう求めていました。米財務省が示したその対象国のリストには、カナダと並んで韓国も入っています(米財務省 2023年3月)。さらに財務省の指針は、正極活物質を北米での製造が必要な「電池部品」ではなく、鉱物を加工して作る「構成材料」に分類しています(財務省ホワイトペーパー)。この基準に照らせば、韓国で作った正極材もベカンクールで作った正極材も扱いは同じです。Ultium CAMの合弁会社自体、インフレ抑制法(IRA)が署名された2022年8月より前の、同年半ばに設立されています。現在では、この論点そのものが過去のものです。米内国歳入庁(IRS)は、2025年9月30日より後に取得した車両には新車のクリーン車両税額控除が適用されないとしています(IRS)。

ケベックの工場は米自動車メーカーにどれだけ近いのか?

素材をトラックで1日で運べる距離です。ベカンクールからはオンタリオ州、ミシガン州、オハイオ州の自動車・電池工場まで車で1日圏内で、国境越えの輸送が短く済めば、運賃も自動車メーカーが抱える在庫も減らせます。一方で、国境は弱点にもなります。エコプロが2025年6月に工事を止めた際に挙げた理由は2つあり、EV市場の不透明感と並ぶもう1つが米国の関税でした。とはいえ、最終組立が米国の外へ移ったわけではありません。韓国企業がケベックで担うのは中間工程の正極材だけで、そこを選んだ理由はクリーンな電力と、政府による費用の一部負担です。セルは今も米国側で作られています。

ケベックに電池工場を持つ韓国企業エコプロとPOSCOフューチャーエム — korean-battery-companies-quebec-canada-factories

よくある質問

Q: POSCOフューチャーエムのUltium CAM(ケベック)は何を作っていますか?

ハイニッケル系の正極活物質で、電池セルの中で正極(プラス極)になる粉末です。工場の能力は年3万トンで、GMとLGエナジーソリューションの合弁Ultium Cellsに供給します(POSCOニュースルーム)。第1期の稼働予定は2026年10月末です。

Q: 米国のEV税額控除の終了で、ケベックの電池工場は止まったのですか?

それだけが原因ではありません。控除は2025年9月30日より後に取得した車両には適用されなくなりましたが、各社が計画見直しの理由に挙げたのはEV市場の状況で、エコプロはこれに米国の関税を加えています。GMは2025年10月にUltium CAMの第2期を保留しつつ第1期は進めており、エコプロの工事は2025年6月から中断しています。

Q: ベカンクールにいるのは韓国企業だけですか?

いいえ。GMはUltium CAMの共同出資者で、フォードも2024年に撤退するまではエコプロの工場のパートナーでした。ブラジルのヴァーレもベカンクールでニッケル硫酸塩工場を計画していましたが、2025年10月に取り消しています。

Q: ケベックの工場はジョージア州やミシガン州の韓国電池工場に取って代わりますか?

いいえ。ケベックの拠点が担うのは、前駆体とリチウムから正極材を作るサプライチェーン中間の1工程だけで、完成セルの組立はジョージア州などにある規模の大きい韓国の電池工場が引き続き担当しています。

Q: ベカンクールはどこにあり、なぜ電池業界が注目するのですか?

ベカンクールはモントリオールとケベック・シティの間、セントローレンス川南岸にある小さな町です。工業団地は専用の港を持ち、州の電力はほぼすべてが水力でまかなわれています。2023年からは、連邦政府と州政府の資金が同地の電池プロジェクトを支えています。

いまのところ、ケベックの韓国系電池産業は、10月の稼働を待つ工場が1つと、再開の日取りが決まらない工事現場が1つ、というのが実情です。

特集 バッテリーとグリーンエネルギー