韓国の中古車輸出、なぜキルギスが金額首位なのか
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韓国の中古車輸出のうち中央アジア向けは、その大半が内陸の小国キルギスに向かっています。2025年、キルギスは金額ベースで韓国産中古車の最大の輸出先となり、1〜10月だけで約26.2億ドル分を輸入して、ロシアやカザフスタンを大きく引き離しています。韓国貿易協会(KITA)が産業通商部と韓国自動車研究院(KATECH)のデータをもとに集計した数字です。同じ2025年、韓国の中古車輸出全体は前年比75.1%増の89億ドルで過去最高を更新しています。キルギスの比重がここまで大きくなった要因は、三つに整理できます。道路交通法が右ハンドル車の登録を認めていないこと、関税同盟を通じてカザフスタンやロシアへ車を送り出せること、制裁を受けてロシア向けの需要が第三国経由のルートに回っていることです。
要点まとめ
- 2025年、金額ベースで韓国の中古車を最も多く買った国はキルギスで、1〜10月の輸出額は約26.2億ドルです。台数ではリビアが11万9519台で首位、キルギスは10万4738台で2位です。
- キルギスでは登録目的の右ハンドル車の輸入が法律で禁じられているため、日本国内で使われていた中古車は入れず、左ハンドルの現代・起亜車が主な供給源になっています。
- 2024年2月24日以降、排気量2,000ccを超えるガソリン・ディーゼル車と、すべてのハイブリッド車・EVをロシアへ輸出するには、第三国を経由する場合でも韓国政府の許可が必要です。
キルギスはなぜ韓国の中古車を買うのか
キルギスが韓国の中古車を買うのは、自国の法律で右ハンドル車を登録できないうえ、韓国には手頃な左ハンドル車の在庫が豊富にあるからです。韓国は右側通行なので国内の車は左ハンドルで、キルギスやカザフスタン、ロシアと同じです。左側通行の日本では、逆に右ハンドルが標準です。キルギスの道路交通法は、登録・運行を目的とした右ハンドル車の輸入を禁じています。さらに2025年2月には、国の車両登録当局が「2024年12月31日より後に持ち込まれた右ハンドル車は合法化しない」と警告したと、キルギスの通信社24.kgが報じています。つまり、日本の右ハンドル中古車がキルギス市場に入れないのは、好まれないからではなく、法律で認められていないからです。
日本の中古車ビジネスも、キルギスの右ハンドル規制と無縁ではありません。ジェトロの2018年のレポートによると、中古車販売のエスビーティー(本社・横浜市)は、日本からキルギスへの中古車輸出の伸びを商機とみて、2012年にビシケクへ日本語とロシア語に対応するコールセンターを設けています。ところが2015年4月にキルギスで右ハンドル車の輸入規制が導入されると、日本からキルギスへの中古車輸出は全面ストップとなり、同社は2016年以降、ロシア向けの輸出を強化したと、同じレポートは記しています。
ただし、同じ規制がロシアにあるわけではありません。KOTRAノボシビルスク貿易館によると、2025年上半期にロシアが輸入した中古車の約50%は日本車で、韓国車は22%にとどまっています。ハンドルの位置から分かるのは、ビシケクで韓国車が選ばれる理由までです。車がその先どこへ流れていくのかは、制裁と関税同盟を抜きには語れません。
キルギスは年間どれくらいの韓国中古車を輸入しているのか
2025年は約13万台です。同年の韓国からキルギスへの車両輸出額は前年比105.4%増の約32億ドルに達し、その99%を中古車が占めています。新車はわずか200台ほどです。いずれも、中央日報(Korea JoongAng Daily)が伝えた韓国貿易協会の統計です。伸びは急です。KITAの集計では、キルギス向けの韓国中古車は2021年6月の377台から2024年6月には5,970台へと16倍に増えたと、KED Globalが報じています。
キルギスは価格帯の高い車も買っています。2025年1〜10月の実績では金額で1位、台数ではリビアに次ぐ2位で、1台あたりの平均は約2万5,000ドルになります。中央アジアでは、カザフスタンが同じ10カ月間に約6.65億ドル分を買い、金額で3位に入っています。タジキスタンも2024年6月の1カ月だけで1,455台を輸入しており、3年前の2倍になっています。半導体と比べれば規模は小さく地味ですが、構図はAIブームに乗る韓国の半導体輸出とよく似ています。韓国の産業が、外からは予想しにくい市場で大きな需要をつかんでいる点です。
なぜ中央アジア向けの韓国中古車輸出は急に加速したのか
加速したのは2022年以降です。ロシアのウクライナ侵攻を受けた制裁によって、キルギスとカザフスタンがロシアの自動車市場への間接的な供給ルートになったためです。KITAのデータを紹介したKED Globalの記事によると、韓国の中古車はビシケクやアルマトイで通関を済ませたあと、モスクワやサンクトペテルブルクへ運ばれています。キルギス向けの急増は、韓国が自国の規制を強める前から始まっています。月平均の輸出台数は2022年が1,939台、2023年が4,251台です。
第三国経由の話に隠れて見落とされがちですが、ロシアとの直接取引も止まってはいません。2025年1〜10月もロシアは金額ベースで韓国の中古車輸出先の2位で、約9.1億ドルに上っています。変わったのは手続きです。韓国は2023年4月から価格5万ドル超の車をロシア向け輸出許可の対象としており、2024年2月24日からは基準を排気量に切り替えています。この第33次戦略物資輸出入告示で、ロシア・ベラルーシ向けの許可対象は1,159品目に拡大されています。現在は排気量2,000ccを超えるガソリン・ディーゼル車と、排気量に関係なくすべてのハイブリッド車・電気自動車に許可が必要です。最終目的地がロシアであれば第三国向けの輸出でも許可が必要になると、韓国関税貿易開発院(KCTDI)が解説しています。
日本では、2023年8月9日に政府がロシアへの輸出禁止措置を拡大し、排気量1,900cc超のガソリン車・ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)などを輸出禁止品目に追加しています。財務省貿易統計によると、同じ2023年8月の日本のロシア向け中古車輸出は1万2,062台で、前年同月比42.5%減、前月比62.4%減と急減しており、ジェトロはこれを輸出禁止措置の影響と伝えています。線引きの数字は日本が1,900cc、韓国が2,000ccと近いものの、日本は輸出禁止品目への追加、韓国は政府の許可制という違いがあります。
キルギスがこの流れの中継地になれるのは、ユーラシア経済連合(EAEU)に加盟しているからです。2015年8月12日に加盟条約が発効し、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、ロシアと並ぶ正式な加盟国になっています。
これらの中古車は韓国のどこから来ているのか
多くは仁川(インチョン)港周辺の輸出ヤードから出ています。仁川港は韓国の中古車輸出の大半を扱っており、ヤードは車を積み込むRORO(自走式)ターミナルのすぐ近くにあります。輸出業者は国内のオークションや販売店から現代・起亜車を仕入れ、韓国の中古車市場には回さずに海外向けとして通関させます。キルギス向けは1台あたり平均約2万5,000ドルなので、古いセダンよりも、比較的新しい上位グレードの車が多いとみられます。
車がキルギスに到着した後はどうなるのか
一部はそのまま残り、ビシケクで販売されます。残りはビシケクで通関した後、陸路でカザフスタンやロシアへ向かいます。EAEU加盟国の間では、改めて全面的な通関を受ける必要がないためです。韓国の取り締まりがいま狙っているのは、この先の区間です。2026年3月12日、韓国関税庁はロシア向け自動車の不正輸出の捜査を強化すると発表し、過去3年間で約1,796億ウォン規模の違反を摘発したと明らかにしています。KCTDIによる取り締まりの解説によれば、2025年の摘発額は前年比465%増で、典型的な手口はカザフスタンやキルギスを最終目的地と偽って申告するものです。許可なく輸出した場合、対外貿易法により7年以下の懲役、または物品価格の最大5倍の罰金が科される可能性があります。
ブームはすでに落ち着きつつあります。産業通商部によると、2026年上半期の韓国の自動車輸出額は1.1%減の359.5億ドルで、その一因は中古車輸出の減少です。

よくある質問
Q: キルギス経由で韓国の中古車をロシアへ再輸出するのは合法ですか?
韓国の輸出業者にとっては、最終目的地がロシアだと分かっている場合、排気量2,000cc超のガソリン・ディーゼル車や、すべてのハイブリッド車・EVは許可なしでは輸出できません。2024年2月の改正以降、それより小さい一般的な内燃機関車はこの許可リストの対象外です。キルギスからロシアへ運ぶ取引はEAEU域内の話で、キルギスとロシアのルールで扱われます。そのため韓国の取り締まりは、韓国国内で虚偽の仕向地を申告する行為に的を絞っています。
Q: 韓国の中古車は中央アジアの道路や気候に向いていますか?
おおむね向いています。現代・起亜の主力セダンやコンパクトSUVは韓国の寒い冬と暑い夏を前提に作られているので、キルギスの大陸性気候とも相性は悪くありません。書類上の扱いを決めるのは気候ではなく、排気量とパワートレインです。韓国のロシア向け許可ルールは、この二つの仕様を基準にしています。
Q: なぜ日本の中古車を買わないのですか?
キルギスの場合、理由は使い勝手ではなく法律にあります。道路交通法が登録目的の右ハンドル車の輸入を禁じているのに対し、日本で走っている車は右ハンドルが基本だからです。ロシアは事情が異なり、2025年上半期の中古車輸入の約半分を日本車が占めています。ロシア市場に限っていえば、日本車を選ぶ道は閉ざされていません。
ここまで規模が大きくなると、中古車の流れも人目につかずには済みません。キルギスは、自国で車を買う市場であると同時に、地域の中継拠点でもあります。制裁を受けても貿易は止まらず、別のルートに流れます。その新しいルートにも、ほどなく取り締まりが及びます。キルギスの事例には、この二つが小さな規模でそのまま表れています。もっとも、半導体と並べれば中古車の輸出はまだ小さな存在で、韓国の輸出統計から見える実像を左右するほどではありません。
特集 自動車とモビリティ